衛靈公第十五 422

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〔原文〕
子曰、君子不可小知、而可大受也。小人不可大受、而可小知也。

〔読み下し〕
()(のたま)わく君子(くんし)(しょう)()すべからずして、大受(だいじゅ)すべきなり。小人(じょうじん)大受(だいじゅ)すべからずして、小知(しょうち)すべきなり。

〔通釈〕
孔子云う、「君達は、枝葉末節の小さなことは知らなくていいが、物事を本質的・根本的に捉えて、大局観を以て臨みなさい。スケールの小さな人物は、大局的に物事を観れないが、枝葉末節に精通しているから、小さなことは彼らに任せておきなさい」と。

〔解説〕
(まさかり)には鉞の役割、鉈(なた)には鉈の役割、剃刀(かみそり)には剃刀の役割があるから、うまく仕事が回るようになっている。ここを間違って、鉞に剃刀の仕事をやらせたりすれば、万事に大まかになり過ぎてザル仕事になってしまい、手抜かりが生ずる。逆に、剃刀に鉞の仕事をやらせたりすれば、今度は細か過ぎて一向に仕事の要領を得ない。

人にはそれぞれ向き不向きがありますから、鉞型か鉈型か剃刀型かをちゃんと見抜いて相応しい役目を割り振らないと、すべてが「帯に短し襷に長し」となってしまって、ちっとも仕事が捗りません。これは使われる側に責任があるのではなく、使う側に責任があります。

差別するのは良くないが、得手不得手・向き向きをきちんと弁別して仕事を与えないと、部下は生きて来ません。生かして使われた時に人はぐんと伸びる。部下を生かすも殺すもボス次第、自分を生かしてくれそうな所に人材が集まって来るんです。いくら待遇が良くても、はり合いが感じられなければ、人は去って行きます。

〔子供論語 意訳〕
孔子(こうし)(さま)がおっしゃった、「リーダーは(こま)かい(ところ)までは()からなくても()いから、大局的(たいきょくてき)(とら)えて全体(ぜんたい)判断(はんだん)(あやま)らないようにしなさい。(こま)かい(ところ)部下(ぶか)(しん)じて(まか)せなさい」と。

〔親御さんへ〕
重箱の隅を楊枝でほじくらないと気が済まない人がいるかと思えば、四角い部屋を丸く掃いてケロッとしている人もいる。人の上に立つ者は、「重箱の隅は杓子(しゃくし)で払う」位の気持ちでいないと、煙たがられて肝心な情報が入って来なくなります。

物事の大小軽重の弁(わきま)えと、緩急先後の序を知らないと、重要度別に優先順位をつけられませんから、大局的・戦略的な判断ができません。「戦略的に間違っていなければ、戦術的な失敗は取り戻せるが、戦略的な判断ミスは、どんなにいい戦術を駆使しても、失敗を取り戻すことはできない」とよく云われますが、これは本当でありまして、今迄に度々目撃して来ました。

そうですねえ…、いくつか実例でお話した方が分かり易いでしょうか。20年程前の話になりますが、県の葬儀組合の顧問をやっていた頃、あるコフィン(棺桶)メーカーから相談を受けまして、段ボール箱の成型システムを応用すると、木製棺桶の自動製造ラインが構築できて、生産性が百倍になるので導入することにしたが、どういうものか?という話しでした。現在の日産はどれ位か?と問うと、一日約300棺、年産約10万棺だと云う。年に10万だとすると、百倍すれば千万棺になるが、売るあてはあるのか?と重ねて問うと、コストが下がるので安くすれば売れると思う、と答える。

世界中に輸出でもする気か?と聞いたら、輸出する気などないと云う。あんたはバカか!?日本で一年間に亡くなる人は百十万人しかいない、つまり、総需要は110万棺しかないのに、その十倍も作ったら、90%が不良在庫になって会社が潰れてしまうではないか!?と云ったら、その社長は分かったようで、このコフィン屋はキャンセル料(一千万位だったか?)払っただけで潰れずに済みました。

これはまだいい方で、次はバカを絵に画いたような話しです。15年程前、四国のあるとんかつ屋から相談を受けて、高松迄来て欲しいと云う。訪問したら、これから幹部会議をやるので立ち会って意見を述べてもらいたいとのこと。この会社は四国四県の県庁所在地にそれぞれ店を持っており、どこも繁盛店で収益も抜群、社長は苦労人で人望も厚く地元では名士。

幹部会議では、今後の営業戦略について社長の基本構想が発表され、それに対して全員が意見を述べよ、ということになっていた。社長の基本構想とは、1)高級専門店を目指す。2)安売りはしない。3)毎日来て頂ける店づくり。であったが、誰も意見を述べる者はいない。

これでよし!と思ったのか、私に意見を求められたので、次のことを述べました。高級専門店で行くという事と、毎日来てもらえる店づくりという事は矛盾しているが、矛盾を解決する妙案でもあるのかね? もしなかったらバカ話しになるが!? と云ったら、社長が「私が生き証人だ! 開業以来20年間毎日我が社のとんかつを食べ続けても飽きないのだから、お客様もきっと来てくれる!!」と答える。

来店頻度調査では、一ヶ月に一回というお客様が圧倒的に多いが、150gのとんかつを毎日食い続けたら、一月で多臓器不全に陥り、一年以内に死んでしまうが、そんなことをしたら、四国中のとんかつ好きはみな死んでしまって客は誰もいなくなるぞ、それでもいいのか?

月一回確実にご来店頂けるようなご縁を大切にする店にしたらどうか?高級専門店ってのはそんなもんだろう? それとも大衆食堂になりたいのかね? と聞くと、「イヤ!あくまでも高級専門店で行く!毎日食べても飽きないとんかつを開発すればいいのだ!!」と言い張るものだから、お宅の幹部は全員デブで顔色も良くないが、健康に問題はないのか? と問うと、全員が糖尿病だと云う。社長は?と問えば、社長が一番重症だと云う。(この会社は社長命令で、店長以上は毎日一回はとんかつを食べなければならない規則になっていた)。

ほらみなさい、毎日とんかつを食い続けたら病気になるんだ!という生き証人じゃないの、人間の自然な食習慣と自然な生理現象を無視した結果じゃないの、皆さん全員が!!自然の摂理に逆らうような商売はやめなさい!と云ったら、幹部は皆ホッとした表情を浮かべたが、社長は「納得いかん!?」という顔をしていた。

この会社はその後社長の陣頭指揮で、毎日食べても飽きないとんかつの開発に精を出していたようだが、社長が糖尿病をこじらせて倒れ、後継者がいなかった為店はすべて売却された。

先のコフィン屋は総需要(市場規模)を無視した例、今のとんかつ屋は自然の摂理を無視した例、つまり、戦略そのものが間違っていたケースですね。皆さん他人事のような顔をしているけれど、似たようなケースはいっぱいありますよ。欲と二人連れになると、大局的な判断を誤ってしまうってことは!ああ、R園は大丈夫、欲を程々にしたら糖尿は治ったし、「健康が何より!」と云わなくなったら健康になった。

「健康が何より!」という言葉程マイナス波動を持ったものはないね、あれは現在不健康を前提にした言葉だから、益々不健康を引き寄せる。健康な人はそれが当たり前と思っているから「健康が何より」などと云わんでしょう?云うなら、「健康はありがたい!」と云うべきだね、今の健康に感謝して。

R園の最近の口癖は、「心が変われば態度が変わる、態度が変われば習慣が変わる」だからねえ!長生きするよこの人は、「で、習慣が変わるとどうなるの?」と聞いたら、「豚もおだてりゃ木に登る!違ってましたっけ?」だもの。
 

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