先進第十一 281

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原文       作成日 2005年(平成17年)10月から12月
子曰、也其庶乎。空。賜不受命、而貨殖焉。億則屡中。
 
〔 読み下し 〕
()(のたま)わく、(かい)()(ちか)きか。(しばしば)(むな)し。()(めい)()けずして貨殖(かしょく)す。(おもんばか)れば(すなわ)(しばしば)(あた)る。
 
〔 通釈 〕
孔子云う、「顔回は仙人の境地に近いのだろうか?物欲に興味を示すことが殆どない。これに対して子貢は、頼みもしないのに金儲けに熱心だ。どんな使命の元に生れついたものか、目論見は大抵的中して、我が教団の台所事情を救ってくれる」と。
 
〔 解説 〕

前にも述べましたが、子貢は商才にたけた人物で、孔子教団の財政面を一手に担っていたようです。投機の名人だったのでしょう。貨幣経済が未発達な当時、需要と供給の自然な法則による物々交換だけでは投機が成り立ちませんから、交換レートの基準となるような物、現在のドルやユーロのように、基軸通貨の役割を果たすような品物があったのではないかと思います。喩えば、金一貫に対して米一石とか、絹一匹に対して羊一頭と云うような。

金も絹も腐りませんし、それ程嵩張りませんから、子貢はこれを元手に、交換レートが激しく上下する物資や地域を狙って、盛んに投機を仕掛けていたのではないでしょうか?魯で金一貫に対して銀五貫、衛では金一貫に対して銀十貫の交換レートだったとすれば、金一貫持って衛で銀十貫と交換して魯に帰れば、差引銀五貫つまり、金一貫を儲けた勘定になる。

金一貫対米一石が魯の相場であったとすると、衛に行って来るだけで米二石が手に入る
計算になる。輸送手段も道路事情も未発達な時代に、穀物や木材や産物を大量に動かすのは大変なことですが、金や絹なら簡単に運べる。シルクロードの語源も、古代中国からキャラバンが絹を西方に運んだことで命名されたものですからね。

孔子は14年間も諸国放浪の旅を続けておりましたから、子貢にとっては誠に好都合、水を
得た魚のように、思う存分商才を発揮したのではないでしょうか。顔回は全く役立たずだったのか?と云うと、そうでもないようで、よく炊事当番を引き受けていたようですね。
 

〔 子供論語  意訳 〕
孔子(こうし)(さま)()おっしゃった、「(がん)(かい)はいつも(ふところ)(さび)しい。()(こう)はいつも(ふところ)(あたた)かい。これは(がん)(かい)(かね)(もう)けが下手(へた)で、()(こう)(かね)(もう)けがうまいからだ。(かね)(もう)けの上手(じょうず)下手(へた)人格(じんかく)(うえ)(した)(なん)関係(かんけい)もないけれど、(ふところ)(さび)しいと自然(しぜん)(こころ)(さび)しくなってしまうものだから、お(かね)はないよりあった(ほう)がいいね。よりよく()きる(ため)には」と。
 
〔 親御さんへ 〕
金がすべてではないけれど、お金はないよりあった方が良い。物質的豊かさイコール幸せ、物質的貧しさイコール不幸せという訳ではありませんが、肉体を着てこの三次元物質世界に生きている以上は、貧しい環境で生きるよりも、豊かな環境で生きた方が、より可能性の幅が拡がるでしょう。

食糧を得る為に、人生の大半を費やさなければならないとしたら、どうするでしょうか?一つは、力を合わせて環境を改善するか?今一つはそれがダメなら脱出するか?のどちらかでしょう。中朝国境のあれだけ監視が厳しい中を、命懸けで脱北するというのは後者ですね。

棲息するだけだったら、人間より猿の方がはるかに身体機能は優れている。人間は棲息ではなく、生活する(生命(いのち)を活かす、つまり活性する)生きものですから、生活を支える為の物資の裏付け、更にはそれらの物資を直接間接に生み出す社会の仕組や技術等が考案され、実験され、改良され続けて来たんですね、人類の歴史は。

ノンデ・クッテ・シテ・ネテ・タレテ、のんべんだらりと棲息して来た訳ではないんですよ、人類は。スピリチュアル・ワールドに興味を持って、真理を探究することは大いに結構なのですが、こういう人はややもすると「真理漬けのヒネ物」のようになってしまって、この三次元物質世界でよりよく生きることを軽んじ厭うという落とし穴にはまってしまう傾向がありますから、余程注意しないといけません。

この世でよりよく生きられない人は、あの世でもよりよく生きられないんです。本人は悠々自適の仙境気取りでいるかも知れないが、見る人が見れば、敵前逃亡の世捨て人にしか見えないんだね、本当は。新興宗教にはまっている人に多いよ、こういうのが。
 
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