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原文
〕 作成日 2004年(平成16年)2月から3月 |
子謂南容、邦有道不癈、邦無道免於刑戮。以其兄之子妻之。
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〔 読み下し 〕 |
子、南容を謂う、邦に道有れば廃てられず、邦に道無ければ刑戮より免れん。其の兄の子を以て之に妻す。
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〔 通釈 〕 |
孔子が門人南容を評して、「あの男は、国が治まっている時は重く用いられ、国が乱れた時でも嫌疑を受けて刑罰に遇うようなことはあるまい。慎み深い人物だから」と云って、兄の娘を嫁がせた。
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〔 解説 〕 |
南容 姓は南宮 名は括 字は子容。先進第十一(仮名論語143頁)に「南容白圭(はくけい)を三復す。孔子其の兄の子を以て之に妻す」と、似た内容の文章があります。白圭とは、詩経・大雅抑篇の一節で『白圭の闕(か)けたるは尚磨くべきなり。斬(こ)の言の闕けたるは為(おさ)む可からず』・「美しい玉は欠けても磨けば元通りになるが、人の失言は一度口から出たら取り返しがつかない」というものですが、南容はこの詩を日に何度も口にして自らを戒めたといいますから、余程言葉に慎重な男だったのでしょう。
孔子には腹違いの兄が一人姉が九人おりまして、その兄の娘(こ)を南容に嫁がせた。長幼の序を喧しく云う孔子が、どうして差し出がましく兄の娘の嫁ぎ先などを決める権利があるのか?失礼じゃないのか!と、疑問に思われるかも知れません。
孔子の兄・孔孟皮(もうひ)は足が悪く、体が不自由だったと云われておりますから、稼ぎもままならなかったのでしょう、孔子は孟皮の子[男子・名は忠(ちゅう)字は子蔑(しべつ)]を弟子として預かっておりますが、陰になり日向になり兄孟皮家の面倒を見ていたのではないでしょうか。恐らく兄から娘の嫁ぎ先を探してやってくれ!と託されていたのでしょうね。
長男の鯉(伯魚)は凡庸な子でしたが、甥の忠(子蔑)も亦凡庸だったようです。尚、この章と前章を合わせて一章とするケースもあります。編者は、嫌疑を受けて投獄された公冶長と、乱れた世でも嫌疑を受けないであろう南容との人柄の違いを対比させて一章とし、孔子の人物本位の評価を浮き彫りにさせたかったのではないかと思いますが、公冶長の人柄を伝えるものは残っておりませんから、何とも云えませんね。
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〔 子供論語 意訳 〕 |
孔子様が門人南容の人柄について、「あの男は何事も慎重に臨むから、国が治まっている時は重宝がられ、国が乱れた時でもぬれぎぬをきせらることはあるまい」と評価して、兄の娘を嫁がせた。
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〔 親御さんへ 〕 |
孔子が娘や姪の婿を選ぶ基準は、どこまでも人物本位だったようです。今から20年程前になりましょうか、ある後輩から「先方の父親から結婚を許してもらえず困っている」との相談を受けたことがあります。「理由は何だ?」と聞きますと、相手の父親曰く「ウチの娘は国立なら旧帝大、私立なら慶応か早稲田を出た者でなければ嫁にやらん!」の一点張りとか。
「そのお父っつあんはどこを出ているんだ?」聞くと、新大だと云う。「相手のお嬢さんは、駈落ちしてでもお前と一緒になりたがっているのか?」と問うと、「はっきりしない」と云う。「お前はどうだ?」と聞くと、「駈落ちなんてとんでもない!」と来た。
「バカヤロー!駈落ちしてでも幸せにしてみせる!位の気概のない男に、誰が大事な娘を嫁にやれるか!!俺がそのお父っつぁんでも、お前には絶対に娘をやらない。出身大学の問題じゃないんだよ、相手の父親が云うのは。お前に魅力がないんだよ、日本男児としての!根性なしと見られているんだよ!!」と雷を落しましたら、それっきり姿を見せなくなりました。
ちょっと心配になりましたので、たまたまその父親の向いに住んでいた古くからの友人にその家の評価を聞いてみましたら、「学歴や肩書なんか気にする人ではない。ずっと商店街の会長をやっておられて、町内でも一番信頼されている人だ。娘さんも厳しく躾られた子だから、きっとお前の後輩が腰抜けだったんじゃないの!?お前の云ったことは間違ってないよ!」とのことでしたのでホッとしました。
それから5〜6年して、ひょっこりとその後輩が訪ねて来まして、「今度結婚するので〆の万歳三唱をやってくれ!」との話し。「アレはどうなった?父親の許しはもらえたのか?」と聞きますと、「エッ、何のことですか?」とポカーンとしておりましたので、変だな?と思って招待状をよく見ましたら、新婦はまったくの別人でした。
その後輩それからどうなったか?ですって?立派に成長して家業を継いでいますよ、しっかりと。この男の父親が苦労人で、胆力のある大人物ですから、薫陶を受けて人間的にも成長したんでしょうね。子供も二人できて、すくすく育っているようです。この男、皆さんも知っていますよ、名前は云わないけど。ホームページに載るからね。今更知らせる必要の無いことは知らせんでいい。知る必要の無いことは知らんでいい。何の益にもならんことはね。
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