微子第十八 472

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〔原文〕
柳下惠爲士師、三黜。人日、子未可以去乎。日、直道而事人、
焉往而三不黜。枉道而事人、何必去父母之邦。

〔読み下し〕
柳下(りゅうか)(けい)士師(しし)()り、()たび(しりぞ)けらる。(ひと)()わく()(いま)(もっ)()るべからざるか。()わく、(みち)(なお)くして(ひと)(つか)うれば、(いず)くに往く()として()たび(しりぞ)けられざらん。(みち)()げて(ひと)(つか)うれば(なん)(かなら)ずしも父母(ふぼ)(くに)()らん。

〔新論語 通釈〕
魯の大夫柳下恵は、三度獄官長(裁判官)に任命され、三度罷免された。ある人が、「あなたは三度も罷免されたというのに、どうして国を去ろうとなさらないのですか?」と尋ねた。柳下恵は、「今の世の中、正道を守り通して人に仕えれば、どこの国へ行ったとて二度や三度罷免されるのは当たり前でしょう。道を曲げて仕えるとなれば、どこへ行こうと仕官することは簡単です。だとすれば、どうして生まれ故郷の魯を去る必要などありましょうか」と云った。

〔解説〕
柳下恵については、衛霊公第十五402章の解説で述べましたので、詳しくはそちらをご覧下さい。柳下(りゅうか)(けい) 姓は展  名は獲  字は禽、恵は諡、柳下は封地からとった号。柳(りゅう)下恵(かけい)と読むのは誤りです。ここいら辺が論語を読み下す時の難しい所ですね、姓か名か字か諡か号か官名か?どこで切ったら良いのか?


古代の中国には「清官六条件」というものがあって、

  一、清貧に甘んじて人民を搾取しない。
  二、法令を厳守して公平に適用する。
  三、上に対しては真実を直言する。
  四、剛直であくまでも正道を守る。
  五、賄賂を受けず私情を差し挟まない。
  六、民生の安定を最優先する。

というものですが、六条件すべて満たした官吏は滅多にいなかったようで、柳下恵はその数少ない中の一人だったようです。柳下恵に似た人物に、元の第五代英宗に仕えた張養浩(ちょうようこう AD12691329)という人がおります。

張養浩は、その清廉高潔ぶりを大臣の不忽木(ぶふむ)に見出され、第五代英宗の時に参議中書省(大政の議事及び詔勅を司る最高機関)の長官まで出世する。しかし、英宗が暗殺されると職を辞して郷里に隠棲し、朝廷の再三の招きにも応じなかった。

張養浩60才の時、関中地方が大旱魃に見舞われ、極度に餓えた民衆が相食むまでの惨状に立至った。この時彼は関中地方の監察長官に任命される。民衆の惨状を見るに忍びなかった彼は断り切れず、郷里の家をたたみ、家財一切を貧民に分け与え、決然として任地に赴く。関中に入ると、餓死者がゴロゴロと転がっている。彼はこの惨状を見て次のように詠じた。「西風疋馬(ひつば)長安を過ぐ 餓殍(がひょう・餓死者のむくろ)(みち)に盈()ちて看るに忍びず 十里路(みち)を埋む 千百冢(ちょう・塚)一家人哭す両三般(親は子を、妻は夫をといろいろに) 犬 枯骨をくわえて筋なお在り 鴉(からす)新屍(しんし)を啄ばんで血未だ乾かず 寄語す(伝えてくれ!)廟堂の賢宰相鉄人もこれを聞かばまた心酸せん」任地に着くや彼は悪徳商人を糾弾して物価の高騰を抑え、政府に救援を仰ぎながら身銭を切って救済に努めた。

一日として宿舎には帰らず役所に泊まり込み、不眠不休で救援活動をに当った。こうして四ヶ月、余りの心痛のため病を発して遂に起つことができなかった。享年61才、関中の民は父母を失ったように哀しんだという。張養浩が隠棲中に書いた書物に「為政三部書(原題・三事忠告)」という名著がある。これなどは、政治家・官僚・経営者・教育者・管理者の必読書だと思う。書店で手に入るものとしては、

  
1、漢文の読み下し文に若干の注釈を加えたもの
   明徳出版社 安岡正篤訳注「為政三部書」

  2
100%口語訳に解説を加えたもの
    PHP 守屋洋訳注「為政三部書講義」

  3
、安岡正篤の次男正泰(まさやす)氏が父の著書に口語訳と解説を加えた
    致知出版 安岡正泰著「為政三部書に学ぶ」

などがあります。是非読んでみて下さい。

〔子供論語 意訳〕
孔子(こうし)(さま)から100(ねん)くらい(まえ)話し(はな)()(くに)公平(こうへい)判決(はんけつ)(くだ)すことで有名(ゆうめい)だった柳下(りゅうか)(けい)という(さい)判官(ばんかん)に、ある人が「あなたは三度裁(さんどさい)判官(ばんかん)任命(にんめい)されながら三度(さんど)ともクビになったのはなぜですか?」と質問(しつもん)した。柳下(りゅうか)(けい)は「(ただ)しいことは(ただ)しい!()(ちが)いは()(ちが)い!と公平(こうへい)判決(はんけつ)(くだ)すのが(さい)判官(ばんかん)役目(やくめ)です。政府(せいふ)(えら)(ひと)が、犯人(はんにん)()()いなので手加減(てかげん)してくれと()ってきても、(わたくし)公平(こうへい)(さば)きました。だから三度(さんど)もクビになったのです。(さい)判官(ばんかん)上役(うわやく)忠実(ちゅうじつ)なのではなく真実(しんじつ)忠実(ちゅうじつ)でなければならないのです。真実(しんじつ)忠実(ちゅうじつ)でなかったら、どこの(くに)行って()(さい)判官(ばんかん)はつとまりません」と(こた)えた。

〔親御さんへ〕
嘘か?真か?明確に分かることであれば、人はそんなに苦労することはありません。分からない時は、動かぬ証拠を突きつけて、「恐れ入りました!」と自白すれば一件落着と相成るのでしょうが、自白もしない、証拠もないとなった場合、一体どうやって白黒をつけたら良いのか?

来年(20095月)から、アメリカの陪審員制度を真似た裁判員制度が我が国にも導入されることとなりましたが、もし私が裁判員に選ばれたとしたら、どうやって白黒の決定を下すだろうか?と考えてみますと、最後はやはりキネシオロジーテストをやって真犯人かどうかを決めるしかありませんね。

日本にも大正12年〜昭和18年迄刑事事件に関して陪審制度があったそうですが、どうして廃止してしまったのか分かりません。戦時下で公判中に爆撃を受ける可能性があるという理由以外に、それなりの理由があって止めたのだと思いますが、何故又それを復活することになったのか?その理由も分かりません。

私は頭が単純なものですから、そんなことは訓練を積んだプロに任せておけば良いではないか!?と思うのですが、素人に評決させるんでしょ?あれは。リタイアして暇を持て余している人にはいいかも知れませんが、現役の人も生産的な仕事を休んで、非生産的なことに従事しなければならないんでしょ?何十日かは。キネシオロジーテストによる一発結審にしてもらいたいなあ!?数分で済みますから。
 

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