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原文
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作成日 2005年(平成17年)7月から9月 |
斎必變食、居必遷坐。食不厭精、膾不厭細。食饐而餲、魚餒而肉敗不食。
色惡不食。臭惡不食。失飪不食。不時不食。割不正不食。不得其醤不食。
肉雖多。不使勝食氣。唯酒無量、不及亂。沽酒市脯不食。不撤薑食。不多食。
祭於公、不宿肉。祭肉不出三日。出三日、不食之矣。食不語、寢不言。
雖疏食菜羮瓜、祭必齊如也。
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〔 読み下し 〕 |
斉すれば必ず食を変じ、居は必ず坐を遷す。食は精を厭わず、膾は細きを厭わず。食の饐して餲せると、魚の餒れて肉の敗れたるは食わず。色の悪しきは食わず。臭の悪しきは食わず。飪を失えるは食わず。時ならざるは食わず。割正しからざれば食わず。其の醤を得ざれば食わず。肉は多しと雖も、食の気に勝たしめず。唯酒は量無く乱に及ばず。沽う酒と市う脯は食わず。薑を撤てずして食う。多くは食わず。公に祭れば肉を宿めず。祭の肉は三日を出さず。三日を出ずれば、之を食わず。食うには語らず、寝るには言わず。疏食と菜羮と瓜と雖も、祭れば必ず斉如たり。
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〔 通釈 〕 |
祭祀の為に斉戒沐浴する時には、必ず普段の食事と内容を変えた。坐る場所も普段とは違った所に席を遷(うつ)した。
飯(めし)はよく精白したものを好んだ。膾は細かく切った物を好んだ。飯は饐(す)えて味の変ったものは食べない。魚も臭いが変って肉の崩れたものは食べない。色の悪いものは食べない。臭いの悪いものは食べない。
煮方(調理)の良くないものは食べない。季節はずれのものは食べない。切り目の正しくないものは食べない。料理に合った付けだれでなければ食べない。肉の量は多くても飯の分量以上は食べない。
ただ酒はどれ位と分量は決めないが、酔って取り乱すことはなかった。市場で買って来る酒や乾し肉は口にしない。料理に添えてある薑は捨てずに食べる。しかし多くは食べない。
主君の祭祀で賜った肉はその日のうちに食べる。家の祭祀に供えた肉は、三日以内に食べる。三日を過ぎたものは食べない。
食事中は話しをしない。寝るときは喋らない。粗末な飯や野菜の吸物や瓜のようなものであっても、祭祀の際には必ず畏れ謹んでお供えをした。
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〔 解説 〕 |
これが2500年前の孔子の食生活ですが、グルメでしょう?味の変ったもの・臭いの変ったもの・色の変ったものを食べないのは当然としても、調理が下手なものは食べない・旬のもの以外は食べない・切り目の正しくないものは食べない・料理に合った付けだれでなければ食べない・店で買って来る総菜は食べないとなると、妻の幵官氏は大変だったのではないでしょうか?
幵官氏は弟子の一人と駈落したという説もありますが、余程の料理上手でなければ、孔子の妻は務まりませんね。前章にもあったように、孔子は大変にオシャレでもありましたから、幵官氏は音を上げたのかも知れません。
ただ、味にはうるさかったようですが、現代の食品の常識、「安心」・「安全」・「健康」という観点から見れば、誠に理に叶った食生活であったと云えます。冒頭に、「斉すれば食を変じ」とある所を見ると、仏教で云う精進料理のような習慣がこの当時あったのかも知れません。
祭祀の間は生臭物や香りの強いものは避けたのでしょう。「酒は量無く、乱に及ばず」とありますから、孔子は酒が好きで結構強かったようですね。そのせいでしょうか?当会にも酒好きが多いのは。
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〔 子供論語 意訳 〕 |
孔子様の食生活はどうかというと・・・、法事の際のおとき(食事)は精進料理で、席順が決まっていた。ごはんはよく精米したものを好んだ、なますは細かく切ったものを好んだ。古いごはんは食べない。魚は臭いが変って身の崩れたものは食べない。色の変ったものは食べない。臭いの悪いものは食べない。調理のまずいものは食べない。季節はずれのものは食べない。切り方の正しくないものは食べない。料理に合ったソースがないと食べない。肉はごはんより多くは食べない。お酒は好きであるが、乱れるほどは飲まない。お店で買ったそうざいは食べない。添えものの生姜は捨てずに食べるが、多くは食べない。お祭りの際に殿様からおすそわけしてもらったローストビーフは、その日のうちに食べる。家の法事でお供え物にした肉料理は、三日以内に食べる。三日過ぎたものは食べない。食事中は、口の中にものを入れたまましゃべらない。寝るときはおしゃべりをしない。ごちそうがなくても、必ずご先祖様にお供えしてからいただいた。
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〔 親御さんへ 〕 |
さあどうですか?今の若い女性で孔子の夫人が務まる人、いますかねえ?スーパーやコンビニで買った惣菜や調理済み食品は一切口にしないとなれば、総てを手造りしなければなりませんが、共働きではまず無理でしょう。調理のまずいものは食べないというのは分かるとしても、旬のもの以外は食べないとか、切り方が正しくなければ食べないとか、料理に合ったソースがなければ食べないなどと云われたら、ちょっと困ってしまうのではないでしょうか?醤油と味噌と塩があればそれでいい、という訳には行きませんからね。
昔は、輸送手段もなく保存技術も干物か塩造位のものですから、地場産の旬のものを食べるしかなかった。最近農政局が音頭をとって「地産地消(地場産の物を地元で消費する)」運動が盛んですが、昔はどこでも地産地消しかなかったんですね。否、昔だけではない、今でも基本的には地産地消が世界の常識なんです。全世界の食糧生産高(100%)のうち、輸出に回るのはたった10%に過ぎませんから、殆どの国が90%は自給ということです。日本だけが異常なんですよ、自給率40%などと云うのは。
今はハウス栽培あり、養殖あり、冷凍品ありで、旬に関係なく季節はずれのものが出回っておりますが、季節はずれのハウス物は、ビタミンやミネラルが旬の露地物の半分しかありませんし、養殖物には、抗生物質やホルモン剤が投与されていること位は知っておいて良いでしょう。BSEで騒がれた「肉骨粉」は、家畜の飼料としては禁止されたけれども、魚の養殖には禁止されていない。
近年子供の食物アレルギーが増えていると聞きますが、お子さんの健康を守るためにも、野菜や魚介の「旬暦(しゅんごよみ)」を知っておいた方が良いのではないでしょうか?書店の料理雑誌コーナーに行けば、どこでも手に入ります。なるべく旬のものを食べさせてやって下さい。
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