子罕第九 227

上へ


原文              作成日 2005年(平成17年)3月から6月
子曰、譬如爲山。未成一簣。止吾止也。譬如平地。雖覆一簣、進吾往也。
 
〔 読み下し 〕
()(のたま)わく、(たと)えば(やま)(つく)るが(ごと)し。(いま)一簣(いっき)()さずして、()むは()()むなり。(たと)えば()(たいら)かにするが(ごと)し。一簣(いっき)(くつがえ)すと(いえど)も、(すす)むは()()くなり。
 
〔 通釈 〕
孔子云う、「人の一生は、喩えてみれば山を築いたり、地面をならしたりするようなものだ。あと一簣(ひともっこ)で山が完成するのに、そこで止めてしまえば仕事は未完成で終わる。これは誰のせいでもない、自分が投げ出したからである。又、地ならしをするのに、あと一簣入れただけで地面がならされるのは、他でもない、諦めずに最後迄やり遂げたからである」と。
 
〔 解説 〕

登山でもマラソンでも、登頂の一歩手前・ゴールの5キロ手前が最も険しく最も苦しいと云います。そこを耐えて頑張り抜いた時に、「達成感」という大きな褒美が待っている。スポーツに限らず、学問研究でもビジネスでも芸術・芸能でも技術開発でも、苦労して成し遂げた時には、必ず大きな喜びがあります。今は「楽して○○」が大流行ですが、楽して達成できることなど元々大したことではないでしょう。耐えることを知らなかったら、本当の喜びは分からないのではないでしょうか?

一生涯順風満帆で過せた人など一人もおりませんし、これからもいないでしょう。何故ならば、我々人間は、この世に魂修業に来ているのであって、遊びに来ている訳ではないからです。一生楽してばかりでは魂が鍛えられませんから、生まれて来る必要がないのです。だから必ず人生のどこかで、失敗したり・挫折したり・大病をしたりと、苦に耐えることを学ぶ仕掛けが設けてある。あなたを一回り大きな人間にする為に。

もし耐え忍ぶことが人間に必要でないならば、釈迦も六波羅蜜(ろくはらみつ・六つの修業項目)の一つに「忍辱(にんにく・耐え忍びの完成)」を挙げなかったでしょう。耐えたり辛抱したりの場面から逃げ出さず、これと一大格闘して来た人というのは、「死中活有り」・「苦中楽有り」を膚で知っているのでしょう、誠に余裕のある人生を送っておられます。顔の相も本当にいい。

逆に、耐えたり辛抱したりの場面から逃げ回って来た人は、どういう訳か晩年を善くしないようですね。顔の相も段々悪くなって来る。面倒なことから逃げて回ってばかりいると、ツケが何処かで必ず廻って来るもののようです。

故安岡正篤先生は、「冷(冷遇)に耐え、苦(苦難)に耐え、煩(煩瑣)に耐え、閑(閑暇)に耐え。激せず、噪(さわ)がず、競わず、随わず。以て大事を成すべし!」と述べておられますが、これ大事なことですね。思うようにゆかなくとも、いきり立ったり・愚痴をこぼしたり・張り合ったり・追従したりするな!耐え抜いて大事を成せ!!ということでしょう。
 

〔 子供論語  意訳 〕
孔子(こうし)(さま)がおっしゃった、「勉強(べんきょう)はたとえてみれば、(やま)得意(とくい)科目(かもく))を(きず)いたり、地面(じめん)(へこ)み(苦手(にがて)科目(かもく))をならしたりするようなものだね。あと(すこ)しで(やま)完成(かんせい)するのに、そこでやめてしまえば永久(えいきゅう)(やま)未完成(みかんせい)のままだ。これは自分(じぶん)努力(どりょく)(おこた)ったからだ。(また)(へこ)みをならすのに、ほんの(すこ)(つち)()れただけで地面(じめん)(たいら)になるのは、自分(じぶん)努力(どりょく)したからだ。得意(とくい)科目(かもく)をさらに()ばすにしても、苦手(にがて)科目(かもく)(おぎな)うにしても、あとほんの(すこ)()(りょく)するだけでいいんだよ」と。
 
〔 親御さんへ 〕
得意な分野を更に伸ばすのも、苦手な分野を補うのも、「もうちょっと主義」でいいのだ!と、孔子は云います。もうちょっと主義とはどの程度のことをいうのかと申しますと、前にも述べた通り「二割増しの法則」と考えて良いでしょう。ただ、自分が子供だった頃のことを思い出して頂きたいのですが、得意な科目は二割増しでも耐えられるけれども、苦手な科目に二割増しの目標を与えられると、耐えきれず挫折してしまった経験があるでしょう?

ですから、得意な科目には二割増し・苦手な科目には一割増しのペース配分が良いと思います。(すべて苦手であったら一律一割増しで良い。その内得意な科目が見つかります)大抵はこれと逆のことをやってしまうんです、得意な科目を一割増し・苦手な科目を二割増しとね。これでは子供がつぶれてしまいます。焦ってはいけません!
 
子罕第九 226 子罕第九 227 子罕第九 228
新論語トップへ