陽貨第十七 466

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〔原文〕
子日、飽食終日、無所用心、難矣哉。不有博奕者乎。爲之猶賢乎已。

〔読み下し〕
()(のたま)わく、()くまでも(くら)いて()()え、(こころ)(もち)うる(ところ)()きは、(かた)いかな。博奕(はくえき)なる(もの)()らずや。(これ)()すは(なお)()(まさ)れり。

〔新論語通釈〕
孔子云う、「腹いっぱい食べて一日中何をするでもなく何を考えるでもなく、ただぼんやりと過ごすなどということは、まともな人間ならそう簡単にできるものではない。世の中に博打ってものがあるだろう?何もしないのなら博打でもやっていた方がまだましだ!」と。

〔解説〕
博奕を今で云うと、マージャンやパチンコの類って所でしょうか?競輪や競馬もそうかも知れません。博とは双六のこと、奕とは囲碁のことで、「博奕(はくえき)」と熟語にすると、博打の意になります。双六はインドで起こり中国に伝わったと云われますが、孔子の頃には既に一般的な遊びになっていたようです。囲碁は中国起源で夏の時代からあったのではないかと云われますが、詳しいことは分かりません。

孔子は博打を奨励している訳ではありませんが、何もすることなく終日ボケーッとしているのなら、賭け事でもしていた方がまだ増しだと云う。結構頭を使いますし、勝った負けたで一喜一憂しますからね。

老人介護施設で、ボケ防止の爲にマージャンが行われているそうですが、かなり効果があると報道されていました。碁や将棋は実力の差が歴然としていて、それがそのまま勝敗につながる、つまり、サプライズが殆どない為、覚えたての人には面白みがないのに対し、マージャンは実力と運が入り混じっている為、ルールさえ飲み込めば、覚えたての人でも勝つことができる。このサプライズが老人に受けているんだとか。

ドキドキ・ワクワクするってことは、脳の活性化につながるんですね。至れり尽くせりで、何もすることが無い状態というのが年寄りには一番好くないそうで、あっという間にボケてしまうそうです。地球上の生物で、博打をやるのは人間だけだそうですから、生物学的に見れば、博打は高等技術の部類に属するのかも知れませんね。

〔子供論語 意訳〕
孔子(こうし)(さま)がおっしゃった、「()べたいだけ()べて、一日中(いちにちじゅう)(なに)もしないでボケーッとしていると、(のう)みそが(くさ)ってしまうぞ!(なに)もしないでボケーッとしているよりは、(とも)(だち)とゲームでもして(あそ)んだ(ほう)がまだました」と。

〔親御さんへ〕
団塊の世代が定年を迎え、年金をもらえるまでにあと5年ありますから、同級生達は皆どうしているのだろうか?と思って聞いてみましたら、殆どが会社の嘱託として働いている。(勿論、経営者・商店主・医者・弁護士・坊主は皆現役です)完全にリタイアして悠々自適の生活を送っているのは、公務員か銀行員になった奴ばかり。

大手銀行に就職して定年退職した友人に、さぞかし楽しい毎日を過ごしているのだろうと思って電話してみると、「お前の所に三ヶ月、いや一ヶ月でいいから居候させてくれないか?」と云うので、「どうしたんだ?」と問うと、「女房が主人在宅ストレス症候群になって、病院通いしている」とのこと。「それなら尚更お前が側に居てやらなきゃダメじゃねえか!」と云うと、「いやー、一日中俺が家に居るからストレスになる病気なんだそうで、いないと治るらしいのだ」。

「だったら気分一新、二人でオーストラリアにでも移住したらどうだ?昔からお前達の夢だったではないか!子供達は皆片付いたんだから」と提案しますと、「そのつもりだったんだが、三年前に女房の兄が事業に失敗して、母親をうちで預かることになったものだから、そうも行かないんだ」とまるで覇気がない。「バアさんも連れてオーストラリアに行ったら?」と云いますと、「バアさんは絶対に行かない!と言い張っている。女房までアナタ一人で行ったら!?と云うし‥‥。俺、婿じゃねえんだけどな!」。しょうがありませんから、「じゃあ俺の所に来いよ!三泊四日が限度だぞ!」と返答しましたが、結局来ませんでした。

その後しばらくしてから電話がかかって来て、「何か面白い本があったら紹介してくれ!」と云うので、「それより、奥さんどうなった?」と聞きますと、「ああ解決した。家を改装して昼間の居住区を完全分離したら女房はすっかり治ったよ!」とのこと。

どういうことかと聞きますと、子供部屋だった所二部屋をブチ抜いて自分の書斎にし、防音工事をしてBOのオーディオセットを入れた。昼飯とトイレ以外、昼間は書斎で好きなことをしていて、女房とは顔を合わせない。「男はやっぱり書斎がなくちゃダメだよな!!」と晴れ晴れとしておりました。(こいつはそれまで書斎がなかった)

これは、主人在宅ストレス症候群でお悩みのお宅に福音です。悩んでないで、ご主人にちょっと立派な書斎を作ってあげなさい。そこをご主人の勤務地代わりしたら良い。(書斎のドアに、○○工房・○○研究室・○○企画・○○コム・アトリエ○○なる看板を掲げてやると尚良い)何なら弁当も持たせたらいい。毎朝8時に「いってらっしゃい!」と書斎に送り出してやって、夕方6時に「お帰りなさい!」と迎えてあげればいいじゃないですか!

用があれば、ケイタイで話せばいい、家族通話無料ってのがあるんだから。どちらかがヨイヨイになるまでは、これでいいのではないかなあ?ストレス症候群で苦しむよりは。「博奕(はくえき)なる者あらずや。之を為すは猶已(なおや)むに賢(まさ)れり」、「書斎なるものあらずや。之を為すは猶悩むに賢れり」ですよ。
 

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