陽貨第十七 458

上へ

〔原文〕
子日、道聽而塗説、徳之棄也。

〔読み下し〕
()(のたま)わく、(みち)()きて(みち)()くは、(とく)()()つるなり。

〔通釈〕
孔子云う、「今聴いて来た事を、受け売りですぐ人に吹聴するのは、自ら徳を損ねているようなものだ」と。

〔解説〕
「道聴塗説(どうちょうとせつ)(他人の言説を受け売りする、或は、いい加減な世間の受け売り話しの意)の出典がここ。荀子は孔子のこの言葉から、後に「口耳之学(こうじのがく)(聴いたことをそのまま人に告げ、少しも自分の身につかない学問のこと)と呼ばれる説を展開する。

『君子の学は耳より入りて心に箸()き、四体に布()きて動静に形(あら)わる。端(ささや)きて言うも、蠕(みゆる)ぎて動くも、一以て法則となすべし。小人の学は耳より入りて口より出ず。口耳の間は四寸のみ。なんぞ七尺の躯(からだ)を美(かざ)るに足らんや』・「君子は、耳から学んだ学問を心に定着させ、身体全体に行き渡らせる。その結果は日々の行動となって表れる。

従って、どなん微細な言行でも、一挙手一投足のすべてが人の模範となりうる。小人は、耳から学んだ学問をすぐ口に出してしまう。口と耳の距離は四寸しかない。これでは七尺の身体全体にどうして行き渡らせることができようか」と。

口耳之学とはうまく喩えたもので、確かに口耳の間は四寸・12cmしかありませんし、口と鼻と耳の気道は喉の奥で繋がっている。私達が人と話しをしていて「どこか軽薄だな?」と感ずるのは、決まってこの口耳之学・道聴塗説の人に出くわした時です。本人は物知りのつもりで語っているのでしょうが、どこか底が浅い。「黙っていた方が男が上がるのに!?」と思うようなことって、屡々(しばしば)あるでしょ?まあ、そういう人に出くわしたら他人事と思わず、自分にもそのようなことがないか?反省の縁にしたらいい。

〔子供論語 意訳〕
孔子(こうし)(さま)がおっしゃった、「(ひと)から()いた(はな)しを鵜呑(うのみ)にして(ひと)にいいふらすと、そのうち(だれ)相手(あいて)にしなくなるぞ」と。

〔親御さんへ〕
鵜呑みとは、鵜が魚を丸呑みするように、人の云うことなどをよく検討せず、そのままとり入れることを云いますが、小学国語辞典には「本に書いてあることや人の云うことを、よく考えないでそのまま受け入れること」と載っています。何でもかんでも批判するというのは良くないけれども、健全な批判精神というものを忘れてしまったら、人間はパブロフの犬と同じで、与えられた条件に反応するだけの生きものに堕してしまいます。

そうだねえ‥‥、最近身近で「バカじゃねえか?こいつらは!?」と思われることに、マイ箸運動というものがあります。自然環境保護の為に割り箸は止めてマイ箸を使おう!という運動だそうで、皆さんの身の回りにも何人かいるのではないでしょうか?

先日このマイ箸に熱心な人に「君は日本の森を殺す気か!?」と問いました所、「森林環境を守る為だ!」と云うものですから、「だったらマイ箸なんかやめて、国産割り箸愛用運動でもやったらどうだ?その方が余程森林環境の保護になるぞ!」といったらキョトンとしておりましたので、詳しく説明したら、「良いことだと思ってやって来たことが、実は仇になっていたんですね!?」と納得してくれました。

説明した内容は次のようなものです。割り箸の材料には「間伐材」や建材の削りくずとして出る「端材」が使われており、廃物利用の優等生です。今全国で年間250億本の割り箸が消費されていますが、国産はたった5億本、ピーク時の10分の1以下になってしまいました。間伐材は以前はベニヤ板やコンパネ用の集成材に利用されておりましたが、これも割り箸同様安い輸入材に押され、前のようには国産されていません。

日本は国土の70%近くが森林で、そのうち50%が自然林、50%が人工林、つまり植林されたものです。植林された森は、20年経つと枝打ちと間伐をしますが、これをやりませんと良木が育ちません。この間伐されたものが集成材や割り箸の材料に回って有効利用されていた為、林業者も収入を得ることができ、森林資源がうまく循環していたのですが、間伐材の使い道がなくなれば、林業者は手間賃も出ませんから、間伐を止めるか、間伐してもそのまま山に捨てて置くことになる。(これが近年物凄く増えている。間伐しなければ杉花粉が増えるのは当たり前です)

間伐しなければ、深く根を張った良木が育たず山崩れの原因となり、間伐した木を山に捨てて置けば、大雨が降ると一斉に沢に流れ出て川を堰き止め、土石流を発生させて森どころか山そのものを破壊してしまう。だから、国産割り箸を大量に使ってもらうことによって、日本の山と森が守られる訳です。

マイ箸運動など以ての外、一本3円でも5円でも良いから、積極的に国産割り箸を愛用してもらう運動を展開しなければならんのです、環境保護を唱えるのなら。年間消費量の50%125億本を国産割り箸で賄い、15円で買ってもらえれば、年間625億円の森林産業が誕生する。こうなれば林業者にも張り合いができて、積極的に枝打ち・間伐をやりますから、死に掛かっている日本の森は蘇ります。

なんでこんなことを知っているかと云うと、昔東北地方のある林業組合に頼まれて、杉柾天削(すぎまさてんそげ)の高級割り箸開発のお手伝いをしたことがあるし、東南アジアから一年木(一年で成長する木)から作った安い割り箸を開発輸入したことがあるからです。建材にできる木材を、何で割り箸なんかにするものですか!値段が百倍も違うんですから!! あと30年もすると、マイ箸運動は「森林破壊運動」であったと酷評されることになるでしょう。

このホームページをご覧の方の中に、もしマイ箸運動をやっている人がおられたら、いい加減にしてください!「過てば則ち改むるにはばかること勿れ」「過ちて改めざる、是を過ちと云う」と孔子も云っているではないですか!!
 

陽貨第十七457 陽貨第十七458 陽貨第十七459
新論語トップへ