陽貨第十七 452

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〔原文〕
子日、由也、女聞六言六蔽矣乎。対日、未也。居、吾語女。好仁不好學、
其蔽也愚。好知不好學、其蔽也蕩。好信不好學、其蔽也賊。好直不好學、
其蔽也絞。好勇不好學、其蔽也亂。好剛不好學、其蔽也狂。

〔読み下し〕
()(のたま)わく、(ゆう)や、(なんじ)(りく)(げん)六蔽(りくへい)()けるか。(こた)えて()わく、(いまだ)し。()れ。吾女(われなんじ)()げん。(じん)(この)みて(がく)(この)まざれば、()(へい)()()(この)みて(がく)(この)まざれば、()(へい)(とう)(しん)(この)みて(がく)(この)まざれば、()(へい)(ぞく)(ちょく)(この)みて(がく)(この)まざれば、()(へい)(こう)(ゆう)(この)みて(がく)(この)まざれば、()(へい)(らん)(ごう)(この)みて(がく)(この)まざれば、()(へい)(きょう)

〔新論語 通釈〕
孔子云う、「由よ、お前は六つの美徳にも六つの弊害があるということを聞いたことがあるか?」と。子路は、「いえ、まだ聞いたことがありません」と答えた。孔子は、「ここに座りなさい、私が話して聞かせよう。

  仁を好んでも学問を嫌がれば、情に溺れて愚か者の仁となる。
 
知を好んでも学問を嫌がれば、地に足のつかない垂れ流しの知となる。
 
信を好んでも学問を嫌がれば、理性を失った明き盲の信となる。
 
直を好んでも学問を嫌がれば、窮屈な野暮天の直となる。
 
勇を好んでも学問を嫌がれば、思慮分別のない乱暴者の勇となる。
 
剛を好んでも学問を嫌がれば、片意地な一刻者の剛となる」 と云った。


〔解説〕
孔子は本当に人間をよく見抜いている。仁も知も信も直も勇も剛も、どれも人に欠かせない徳目ですが、道理を欠いたら却って害になると云う。愚か者の仁・垂れ流しの知・明き盲の信・野暮天の直・乱暴者の勇・一刻者の剛、誰でも一つや二つ心当たりがあるのではないでしょうか?愚か者の仁は相手を害うこととなり、垂れ流しの知は自分を害うこととなり、明き盲の信は家族を害うこととなり、野暮天の直は仲間を害うこととなり、乱暴者の勇は社会を害うこととなり、一刻者の剛は国を害うこととなる。

愚か者の仁とは、親バカが高じた「バカ親」。垂れ流しの知とは、文字の奴隷「鉛槧の庸(えんざんのよう)」。明き盲の信とは、唯物論やインチキ宗教の「狂信者」。野暮天の直とは、空気の読めない「バカ正直」。乱暴者の勇とは、血気に走る「狼藉者」。一刻者の剛とは、頑固な「一概こき」と考えたら分かり易いのではないでしょうか。バカ親は子をダメにし、鉛槧の庸は自分をダメにし、狂信者は家族をダメにし、バカ正直は仲間をダメにし、狼藉者は社会をダメにし、一概こきは国をダメにするでしょう?過ぎたるは猶及ばざるが如し!何事もバランス感覚を欠いたら危うい!!ということでしょう。

〔子供論語 意訳〕
孔子(こうし)(さま)、「(ゆう)くん、(きみ)はプラスの(なか)にもマイナスの部分(ぶぶん)があることを()っているかね?
」と弟子(でし)()()()いた。()()は、「()いたことがありません」と(こた)えた。孔子(こうし)(さま)は、「ここに(すわ)りなさい。(わたし)が六つのプラスと六つのマイナスの(はな)しをしてあげよう。愛情(あいじょう)(ふか)いことはプラスだが、(あま)やかすだけで(きび)しく(しか)ることをしなければ、(なん)でも(ゆる)されると(かん)(ちが)いして、()がままな駄々(だだ)()(そだ)ってしまう、これが愛情(あいじょう)のマイナス(めん)だ。(はば)(ひろ)知識(ちしき)()につけることはプラスだが、暗記(あんき)するだけで活用(かつよう)しなければ、(なん)(やく)にも()たない()()いた(もち)(おわ)わってしまう、これが知識(ちしき)のマイナス(めん)だ。信仰(しんこう)()つことはブラスだが、教祖(きょうそ)のいうことを()()みにするだけで自分(じぶん)(あたま)(かんが)えることをしなければ、マインドコントロールされて(あやつ)(にん)(ぎょう)になってしまう、これが信仰(しんこう)のマイナス(めん)だ。正直(しょうじき)であることはプラスだが、(うわ)(つら)不正(ふせい)(あば)くだけで真相(しんそう)究明(きゅうめい)をしなければ、(たん)なる摘発屋(てきはつや)になって仲間(なかま)()(ぎら)いされてしまう、これが正直(しょうじき)のマイナス(めん)だ。勇気(ゆうき)のあることはプラスだが、()()るだけで(へりくだ)ることをしなければ、単細胞(たんさいぼう)(ノータリン)乱暴者(らんぼうもの)となってしまう、これが勇気(ゆうき)のマイナス(めん)だ。意志(いし)(つよ)いことはプラスだが、意地(いじ)()るだけで自分(じぶん)()反省(はんせい)することをしなければ、()からず()強情(ごうじょうっ)()りとなってしまう、これが意志(いし)(つよ)さのマイナス(めん)だ。ものごとにはプラスとマイナスの両面(りょうめん)があることを(おぼ)えておきなさい」とおっしゃった。

〔親御さんへ〕
これは通釈文より難しくなってしまったかな?子供よりも親に云って聞かせたい話しなので、ついつい肩に力が入ってしまいました。お子さんに読んで聞かせる際、「小学国語辞典」に載っていない言葉がありますので、親御さんから説明してあげて下さい。「絵に画いた餅」・「マインドコントロール」・「摘発屋」・「単細胞」・「分からず屋」は載っておりません。本章の眼目は、ものごとにはプラスとマイナスの両面があるのだから、どちらか一方に偏ったらいかん!!ということですね。バランス感覚です。
 

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