子路第十三 342

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〔原文〕
子曰、以不教民戰、是謂棄之。

〔読み下し〕
()(のたま)わく、(おし)えざるの(たみ)(もっ)(たたか)う、()(これ)()つと()う。

〔通釈〕
孔子云う「訓練もしていない人民を戦場に駆り立てることは、犬死にせよ!と云うに等しい」と。

〔解説〕
三桓の専横、魯公のリーダーシップの欠如等、魯国は内政の混乱に振り回されて、挙国一致の国防体制が敷けなかったようです。一貫した軍事訓練ができず、その都度俄か仕立ての軍隊を編成して応戦していたのではないでしょうか?訓練も施されていない人民が急遽戦場に駆り出され、犬死に同然に命を落して行ったものと思われます。孔子は心を痛めたに違いありません。

亡くなられた会田雄治さんや山本七平さんの書いた物を読みますと、大東亜戦争末期、それ迄の徴兵猶予が停止され学徒出陣で出征した学生達は、犬死に同然に命を落して行ったようです。先の大戦で亡くなった200万将兵のうち、70%140万が戦死ではなく餓死であった、というのですから驚きです。

昭和天皇は、後に敗戦の理由はなにか?と問われた際に、「科学力の軽視と兵法の不勉強にあった」と答えられたそうですが、兵法中の兵法「孫子」の五事七計に、「一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法」とあり、「法とは曲制・官道・主用なり」とある。主用とは、装備や物資のことです。「孫子の兵法」は前にやりましたから、その時の講義録に今一度目を通してみてはいかがでしょうか?結構参考になることが載っています。

〔意訳〕
孔子(こうし)(さま)がおっしゃった、「練習(れんしゅう)もしないで試合(しあい)にのぞむのは、(たたか)(まえ)にすでに()けたようなものだ」と。

〔親御さんへ〕
練習すれば必ず勝てるというものではないけれど、練習しなかったら確実に負けます。攻め方も守り方も分かりませんからね、特に格闘技は。ケンカだって、場数を踏んだ奴にはかなわない、空手家でも柔道家でも。

今は亡くなりましたが、昔ものすごくケンカに強いやくざ者の知り合いがおりまして、ケンカ相手で一番嫌なのは誰か?と聞きましたら、合気道をやっている奴だ!と云う。何故か?と問うと、「空手でもボクシングでも柔道でも、みな構えの型があるから、相手が身構える前の一瞬の隙を突いて急襲すれば勝てる。どんなに強い選手でも。合気道は構えないからやりにくい。以前訳のわからんうちに空気投げみたいなことをされて、前歯を折ったことがある」と語っておりました。

ケンカのプロがこう云っているのですから、変態の多い昨今、心配な人はお子さんに合気道を習わせておいたらいいかも知れない。因みに、その筋の人達はどういう訳かあの世・霊魂や亡霊の話をすると、ものすごく怖がるんですね。「あんたの右肩に乗っているその白いものは何だね?」などと云おうものなら、縮みあがっていましたから。目に見えるものは怖くないが、目に見えないものを怖がるってのは、案外分かっているのかも知れない、この世の報いをあの世で受ける、死後裁きに遇うってことを。

ついでに云っておくと、鼻のいい人なら分かると思うのですが、やくざ者にも三種類の匂いがありまして、生臭い匂いのするやくざ、これは凶悪です。獣臭い匂いのするやくざ、これは凶暴です。人間臭いやくざ、これは多少仁侠道を心得ているようですね。そういえば、この方面の人達は、みな早死にだねえ。大体六十前に亡くなっている。八十九十迄生きて、天寿を全うしたなどという話しは聞いたことがない。あの稼業も相当ストレスが溜まるんでしょう。

アレッ?何でやくざの話しになったのかな?まあたまにはいいか、あの子路だって入門前は仁侠やっていたんだから。若い頃グレて散々極道をやってみたが、ある時目覚めて矯め直しをやった人物は、味がありますよ!大過なく過ごして来た人の何倍も。

前頭葉前方部位の発達障害がなければ、四十前だったら矯め直しがきくのではないかな?本人さえその気になれば。否、本当にその気になれば、死ぬまで矯め直しがきくのかも知れない。「老いて学べば死して朽ちず」、悔い改めに遅すぎることはない、手遅れといことはない、棺桶に入る迄は。過去にしてしまったことは変えられないけれども、今の自分の心は変えられる。いくつになっても。あの世に持って帰れるのは、心だけですから。
 

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