先進第十一 276

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原文       作成日 2005年(平成17年)10月から12月
魯人爲長府。閔子騫曰、仍舊貫、如之何、何必改作。子曰、夫人不言。
言必有中。
 
〔 読み下し 〕
魯人(ろひと)長府(ちょうふ)(つく)る。閔子騫(びんしけん)(いわ)く、旧貫(きゅうかん)()らば、(これ)如何(いかん)(なん)(かなら)ずしも(あらた)(つく)らん。()(のたま)わく、()(ひと)()わず。()えば(かなら)(あた)ること()り。
 
〔 通釈 〕
魯の昭公が長府という宝物庫を改築しようとした。この話しを聞いた閔子騫が、「元からあった倉を補修すれば良かろう。何も改築することもないだろうに」と云った。これを聞いた孔子は、「あの男は滅多にものを言わないが、言えば必ず核心をついている」と云った。
 
〔 解説 〕

この文章だけでは、閔子騫の発言が何故核心をついていたのか分かりませんが、この会話には次のような背景がありました。昭公は三桓の専横を憎んで、一拳に征伐できないものかと考えたすえ、三桓の武器を保管している長府(倉の名)の改築を口実に、武器を隠してしまうことを思いついた。

だが、こんなことで抜目のない三桓を騙せる筈がないし、更には、造営の為に人民は賦役や重税に苦しむこととなる。建て替える必要もない倉を強硬に改築したりすれば、人民は昭公に反発するようになり、三桓を一層利することになるだけである。閔子騫は昭公の稚拙な策では必ず失敗する!と読んだのでしょう。状況判断から、閔子騫と同じ読みをしていた孔子は、「中々眼力のある奴だ!」となった。

案の定事前にこれを察知した三桓はクーデターを起こし、敗れた昭公は斉に亡命することと相成った訳です。昭公が斉に亡命したのは孔子35才の時ですから、本章は閔子騫が20才の頃のエピソードということになる。すごい男だったんですね、閔子騫は。

たとえ理念や方向性は正しくとも、優先順位やタイミングを誤った為に、失敗してしまうケースが多々あります。今回の衆議院選で民主党が惨敗した例など、優先順位とタイミングを見誤った格好のケーススタディーですね。岡田党首の状況判断が根本的に甘かったんです。


人の上に立つ者(リーダー)の必須要件は、一に人望(人格・徳性)、二に手腕(現実処理能力)、三に先見性(洞察力・直感)、四に運(ツキを呼び込む力)と云われますが、三の先見性が、
正確に状況を判断し→物事に優先順位をつけ→タイミングをはかって実行する能力ということですね。

企業のトップに「人望」がなければ有能な人材は離れ、「手腕」がなければ事業は衰退し、
「先見性」がなければ経営は迷走し、「運」がなければ潰れます。人の上に立つ者は、人望・手腕・先見性・運のどれか一つが欠けてもダメなんですね。中でも、人望がなかったら絶対にトップにはつけられません。

里仁第四91章に「徳は孤ならず、必ず鄰あり」とあるように、徳のある人物には、必ず共鳴者・同調者・支援者・協力者が現れる、つまり、人望さえあれば、手腕があり・先見性があり・
ツキのある有能な人材を呼び込むことができます。

同族会社がオカシクなるのは、殆どが人望のない凡庸な後継者を代表取締役に据えることが原因です。これは、仕事柄私の経験則から云っても間違いありません。溺愛するバカ息子と抱き合い心中しても良い!というのなら話しは別ですが、会社を守ってもらいたい!従業員を守ってもらいたい!できれば発展して欲しい!というのであれば、どんなに可愛いくても、人望のない凡庸な息子をトップにつけるべきではありません。

これは後継者選びの鉄則でありまして、これを無視した所は、大概潰れてしまったか、潰れ
かかっています。どうしても身内を後継者にしたいと云うのであれば、甥や姪、更には従兄弟の息子や娘に迄範囲を拡げれば、キラリと光る子が必ず一人や二人いるものです。その子を引っ張って来なさい。皆さんの中で、後継者問題で頭を悩ませている方がおられるようですので、敢えてこんな話しをさせてもらいました。
 

〔 子供論語  意訳 〕
()(こく)殿様(とのさま)宝物(ほうもつ)殿(でん)()てかえようとした。こ(はなし)()いた弟子(でし)閔子騫(びんしけん)は、「どうしてそんなムダなことをするのだ。(いま)のままではなぜいけないのだ?(こわ)れた(ところ)修繕(しゅうぜん)すればそれですむではないか」と()った。これを()いた孔子(こうし)(さま)は、「閔子騫(びんしけん)()(とお)りだ。殿様(とのさま)自己(じこ)満足(まんぞく)(ため)税金(ぜいきん)のムダ使(づか)いをしてはいけないね。閔子騫(びんしけん)無口(むくち)()だが、発言(はつげん)するとなるといつもズバリと核心(かくしん)をついてくる」とおっしゃった。
 
〔 親御さんへ 〕

物事には須く大小・軽重の別と緩急・先後の順というものがありまして、これをよく弁えておりませんと、成ることも成らなくなってしまいます。重大で急を要することを後回しにして、軽小で急ぐ必要のないどうでも良いようなことを優先したりすれば、いい結果が生れる筈がありません。

ところがどういう訳か結構いるんだね、こういう人が。味噌も糞も一緒くたってのが。資源も時間も無尽蔵にあるのならそれで良いかも知れませんが、この世は資源にも時間にも限りがありますから、一つ一つに優先順位をつけてタイミングを見極めて事を運ばなければなりません。


そこで今回は、ピントはずれの意思決定をしない為に、誰でも簡単にできる優先順位のつけ方を紹介してみましょう。やらなければならないことを、まず急を要することか?急がないことか?「緩」か「急」かの二つに分ける。次に、それが重大なことか?軽小なことか?「軽」か「重」かの二つに分ける。

 

 

  

・急を要し、 重大なことが
   第一優先順位。  → 4

・急を要し、軽小なことが
   第二優先順位。  → 3

・急がないが、重大なことが
   第三優先順位。→ 2

・急がないし、軽小なことが
   第四優先順位。→ 1 

 これでスッキリしたでしょう?

これでもまだ「1」から先に手をつけるようであれば、頭が壊れている証拠ですから、何はさておいても精神科に行って診てもらうのが第一優先順位でしょう。大丈夫かな?あの人・・・、「脳ドッグ」に行くとか何とか云っていたようだけれど。
 

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