里仁第四 071

上へ


原文        作成日 2003年(平成15年)11月から12月    
子曰、富與貴、是人之所欲也。不以其道得之、不處也。貧與賎、
是人之所惡也。不以其道得之、不去也。君子去仁、惡乎成名。

君子無終食之間違仁、造次必於是、顛沛必於是。
 
〔 読み下し 〕
()(のたま)わく、(とみ)(たっとき)とは、(これ)(ひと)(ほっ)する(ところ)なり。()(みち)(もっ)(これ)()ざれば、()らざるなり。(まずしき)(いやしき)とは、(これ)(ひと)(にく)(ところ)なり。(その)(みち)(もっ)(これ)()ざれば、()らざるなり。君子(くんし)(じん)()りて(いず)くにか()()さん。君子(くんし)(しょく)(おわ)るの(あいだ)も、(じん)(たが)うこと()く、(ぞう)()にも(かなら)(ここ)(おい)てし、顛沛(てんぱい)にも(かなら)(ここ)(おい)てす。
 
〔 通釈 〕

孔子云う、「財産と高い身分とは万人が欲するものである。しかし、人として正しい道を踏み行なった結果得たものでなければ、一体何の価値があろうか。

貧乏と低い身分とは万人が嫌うものである。しかし、悪事の結果貧賤となったものでなければ(正しいことをしているにもかかわらず貧賤となったものであれば)、あくせくする必要はない。

人の上に立つ者が仁(良心)を忘れたら、一体如何なる名分が立つというのだろうか?君子というものは、食事をとる束の間も仁から離れることがない。つまり、とっさの時もまさかの時も
仁を忘れることがない。これが君子である」と。
 

〔 解説 〕

「造次顛沛(ぞうじてんぱい・とっさの場合とまさかの場合、転じて束の間の意)」なる成語の出典がここ。仁をここでは良心と解釈しました。造次とはあわただしい様を云い、顛沛とは躓き倒れる様を云いますが、造次顛沛に仁(良心)を忘れることなく考え行動できるような不動心を養うのは、並大抵のことではありません。大概は我れを忘れてパニックに陥ってしまうか、自己保身に汲々とするかのどちらかでしょう。

これが我々凡人の悲しい性(さが)なのかも知れませんが、必ずしも諦めてしまうこともないようです。鳳(おおとり)という鳥類の王者がおりますが、文字を分解してみれば、鳳=凡+鳥、
つまり凡鳥(平凡な鳥)となりますから、喩え平凡な鳥であっても、心掛け次第では鳳になれる。逆に、生れは鳳であっても、心がけが悪ければ凡鳥で終わる、ということでしょう。

鳥でさえこうなのですから、万物の霊長たる人間であるならば、今は喩え凡人であったとしても、本人の心掛け次第では誰でも君子になれるのだ!と考えられないでしょうか?孔子教学のすごさは実はここにあるんですね、心掛け次第・修養次第で誰でも君子になれる!という所に。その拠り所を仁に置け!ということなんですね。
 

〔 一言メッセージ 〕
『平凡な鳥でも鳳(おおとり)になれる。ならば俺達だって君子になれる筈、
   心掛け次第で』
 
〔 子供論語  意訳 〕
孔子(こうし)(さま)がおっしゃった、「お(かね)(もち)ちで(ゆう)名人(めいじん)になりたい!と(だれ)(かんが)えるが、(ゆめ)()(つづ)けて努力(どりょく)する(ひと)はあまりいない。ほとんどが途中(とちゅう)()()してしまう。貧乏(びんぼう)でダサイ人にはなりたくない!とみな(かんが)えるが、ではどんな(ひと)になりたいのか?と()われて、(わたし)はこういう(ひと)になりたい!とはっきり(こた)えられる(ひと)はあまりいない。ほとんどがのんべんだらりとした毎日(まいにち)(おく)っている。立派(りっぱ)(ひと)(はじ)めから立派(りっぱ)だったのではない。(はじ)めは平凡(へいぼん)でも、(ゆめ)()(つづ)けてコツコツと努力(どりょく)(かさ)ねたから立派(りっぱ)になったんだよ。だから君達(きみたち)も、(おお)きな(ゆめ)()って努力(どりょく)してごらん!?」と。
 
〔 親御さんへ 〕

先日ある冊子を読んでおりましたら、マリナーズのイチローが小学校6年生の時に書いた作文が載っておりました。ちょっと長くなりますが以下に紹介してみます。

「僕の夢は一流のプロ野球選手になることです。そのためには中学・高校と全国大会に出て活躍しなければなりません。活躍できるようになるためには練習が必要です。僕は三歳の時から練習を始めています。三歳から七歳までは半年くらいやっていましたが、三年生の時から今までは三百六十五日中三百六十日は激しい練習をやっています。だから、一週間で
友達と遊べる時間は五、六時間です。そんなに練習をやっているのだから、必ずプロ野球の選手になれると思います。

そして、その球団は中日ドラゴンズか西武ライオンズです。ドラフト入団で契約金は一億円
以上が目標です。僕が自信のあるのは投手か打撃です。去年の夏、僕達は全国大会に行きました。そして、ほとんどの投手を見てきましたが、自分が大会ナンバーワン選手と確信でき、打撃では県大会四試合のうちホームラン三本打ちました。そして、全体を通した打率は五割八分三厘でした。

このように自分でも納得のいく成績でした。そして、僕達は一年間負け知らずで野球ができました。だから、この調子でこれからもがんばります。そして、僕が一流の選手になって試合に出られるようになったら、お世話になった人に招待券を配って応援してもらうのも夢の一つです。とにかく一番大きな夢は野球選手になることです」 (小さな人生論より)。

さすがはイチローだな!?と思いますが、もっと偉いのは親ですね。本人の努力もさること
ながら、イチローの才能を見出し−夢を与え−励まし続けた訳ですからね。一流になるかどうかは別にして、子供の才能を見出し−夢を与え−励まし続けるというのも、子を持つ親の大切な役目でしょう。努力する時の栄養剤は、周囲の励ましなんですね。努力する習慣さえ身に付けてくれれば、後は自分で何とかやって行けますからね。
 

里仁第四  070 里仁第四 071 里仁第四  072
新論語トップへ