為政第二 028

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原文                  作成日 2003年(平成15年)5月から7月
子曰、君子不器。
 
〔 読み下し 〕
()(のたま)わく、君子(くんし)(うつわ)ならず。
 
〔 通釈 〕
孔子云う、「できた人物というものは、用途の限られた器物のようなものではない」と。
 
〔 解説 〕

器物のような人とは、云われたことしか出来ない人間と考えて良いでしょう。「云われても出来ない人がいるのだから、云われたことをきちんとやれたら立派なものではないか!?」と思われるかも知れませんが、それならそれで結構、但し一生涯小人(しょうじん・指示待ち族・小人物)でいるつもりなら。

君子(リーダー・できた人物)、つまり、人の上に立つ場合は、云われなくとも出来る人にならなければ勤まりません。なぜかと云うと、誰も指示してくれる人はおりませんから、自ら考え判断し決断し部下をリードして行く他はないんですね。模範解答のない応用問題を、日々解かされているようなものなんですよ、リーダーは。

器物人間を他の喩えで云うならば、肩書きだけでいきているような人、とも云えるでしょうか。長年一つの職場に居りますと、そこでの常識が即世間の常識と錯覚してしまうんですね。殊に、旧い体質の会社で、本人の人徳や器量に関係無く年功序列でそこそこ出世して来たような人の場合、定年の間際になる迄、本人は肩書で生きて来たことに中々気がつかないものなんですね。

ところが世の中良くしたもので、ちゃんとこれに気付かせてくれる存在が二つあるんですねえ。一つは飲み屋のママさん、もう一つは奥さん。肩書きを外したら何にも残らないようなサラリーマンが定年近くなると、飲み屋ではツケが効かなくなります。ちゃんと見抜いているんですよ、飲み屋のママさんは。この人は会社の金で飲み食いしている卑しい人間だと。

飲み屋の
ママさんは結構鑑識眼がありますから、定年後迄付き合いたくないんですよ、金も無く中身も無い人間とは。飲み屋のママさんにつれなくされて家に帰ってみれば、そこには更に衝撃的な現実が待っている、「アナタッ!定年退職したら、ワタクシ離婚させてもらいます!退職金は半分いただきます!!」と。

まあ、定年離婚はいざ知らず、定年間際になって行きつけの飲み屋のママさんに急につれなくされたりツケが効かなくなったりした経験のある人は、早く気付いた方が良いですね、世間はあなたのことを「肩書だけの単衣羽織」としてしか見ていなかったのだと。


でも心配ご無用。普通は定年後20年以上生きますから、今からでも遅くない。一緒に論語でも学んで、目からウロコをきれいに落として、さっぱりとした気分でこの世とおさらばしてみましょうよ。「老いて学べば死して朽ちず」と云うではないですか。真理を学ぶに手遅れということはないんですね。
 

〔 一言メッセージ 〕
『肩書をとり、学歴をとり、財産をとり、名声をとった後に残ったもの、
  それがあなたの本当の魅力』
 
〔 子供論語  意訳 〕
孔子(こうし)(さま)がおっしゃった、「君達(きみたち)は、これしかできない!という道具(どうぐ)のような人間(にんげん)になってはいけないよ。むしろ、その道具(どうぐ)使(つか)いこなす(ほう)人間(にんげん)になりなさい」と。
 
〔 親御さんへ 〕

解説では、ママさんにつれなくされた定年男の話しをしましたので、ここでは、サラリーマンにつれなくされた中年ママさんの話しをしてみましょう。

仕事柄時折水商売の中年ママさんから経営診断を依頼されることがありますが、原則として、その方が48才以上の場合はお断り
するようにしております。何か特別な才能や技能のある場合は別ですが、ママさんの容色だけが売りでやって来たお店は、48才〜50才位で店の賞味期限が切れてしまうんですね。

どういうことかと申しますと、ママさんの贔屓筋というのは、大抵一回り上の世代でありまして、ここが一番金を落してくれますから、当然ママさんもこの世代を上客として扱います(引き連れて行かれた年下の部下達は通り一遍の扱い、いつも一見(いちげん)さんですね)。しかし悲しいかな、サラリーマンには60才定年制がありますから、ママさんが48才になる頃には、一番の贔屓筋だった上客は次々とリタイアしてしまう訳です。

今まで会社の金で飲みに来ていたサラリーマンで、リタイアしてからも自分のポケットマネーを使って足繁く通ってくれる客など殆どおりません。かと云って、その人がよく連れて来ていたママさんと同世代の現役の部下達は、これ亦自分を大切に扱ってくれる一回り下の世代のママさんのいる店を贔屓にしますから、あてにはなりません。

思い余って「ターさん、たまには顔をみせて!」などと会社に電話しても、「ああ、そのうちね」とつれない返事。かくして、さしもの容色を誇ったママさんも、五十に手の届く頃には、サァーッと潮が引くように、店には閑古鳥が鳴いてお茶を挽くことと相成る訳です。

ですから、水商売をやるならば、48才までにうんと儲けて五十前に居抜きで権利を売るか、それ以上続けるのであれば、商店主・中小企業経営者・医師・弁護士・税理士・坊さん等、定年のない人達からうんと贔屓にしてもらうことですね。容色では若い姐にかないませんから、人柄でね。人柄で勝負するとなれば、やっぱり論語を一緒に学んでみようということになり
ますかね。今日は随分俗っぽい話しになりましたが、たまにはいいでしょう、こんな話しも。
 

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