陽貨第十七

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<陽貨第十七>  2006−3−11

・古者、民に三疾あり
 
  古の人達には三つの欠点があったが、その反面長所もあった。
  今の人達は一方の欠点だけで、もう一方の長所はすっかり失ってしまったようだ。

古の人 今の人
狂であるが、大らかさをもっていた
(狂・・・志だけが大きく、こころもとない)
ただ、締りがないだけ
矜であるが、律儀さを持っていた
(矜・・・節度を堅く守るが、角が立つ)
徒に突っ張りあって、人と争うだけ
愚であるが、開けっぴろげの素直さがあった
(愚・・・誰にでもあるオメデタイ一面)
隠しごまかそうとるズルさだけ









   @ 泰伯
  泰伯第八「狂にして直ならず・・」を参照   http://rongo.jp/kaisetsu/rongo.php?203,1
・巧言令色鮮きかな仁  学而第一を参照  http://rongo.jp/kaisetsu/rongo.php?3,1
・紫の朱を奪うを悪む
 「何が憎いといったら、人々が無意識のうちに知らず知らず悪い方向に染まって行くほど、
 恐ろしいことはない」
・予言うことなからんと欲す
 「言外の言」  「理外の理」
 「何だかんだと言う前に、自己が生かされている存在であることを知れ!目覚めてこれを知れ!」
 と言外に言いたかったのではあるまいか。

・孺悲、孔子に見えんと欲す

・三年の喪は期にして己(スデ)に久し
 「子生まれて三年、然る後に父母の懐を免る」

・飽くまでも食いて日を終え
 公務員のボケる割合が圧倒的に高い。これは「絶対潰れる心配はないし、首になることもない。
 長年それが当たり前だと思って、問題意識も危機意識もなく過ごしてきたからではないか」

・君子勇を尚ぶか
  為政第二「義を見て為ざるは勇なきなり」 http://rongo.jp/kaisetsu/rongo.php?40,1
  「蛮勇(不義の勇)を見て制せざるも勇なきなり」


・君子も亦悪むこと有や
  @人の悪口を言いふらす者・・・・・・・増幅されて、自分に返ってくる。
  A自分の上司を誹る者・・・・・・・・・自分が上に立ったら、同じように誹りを受ける
  B節操なく蛮勇を奮う者・・・・・・・・後で必ず仇をとられる
  C道理が分からぬくせに意固地な者・・・敬遠されて孤立無援となる
  D人の意見を掠め取って知者ぶる者・・・本物が現れると影が霞み、信用を失う
  E傲慢不遜を以って勇者ぶる者・・・・・触らぬ神に祟りなし。耳目を塞がれる。
  F他人の秘密を暴き立てて正直ぶる者・・必ず返り討ちにあう。

・女子と小人は養い難いと為す
  「女子」の反対語は、「淑女」。この時代の女子とは女性をさすものではない。馬鹿な女の事。
  「小人」の反対語は「大人」。小人の読み方は「ショウジン」で、子供をさすのではなく、
  愚かでくだらない男をいう。大人の読みは「ダイジン」。オトナではなく、立派な男性をさす。
  平たく言えば「馬鹿は死ななきゃ、なおらない」 
  
・年四十にして悪まるるは其れ終わらんのみ
 40歳を過ぎても、まだ世間から憎まれたり嫌われたりしているようでは、最早その人生は
 勝負あったということかな。

 世の中は好きか嫌いかという二元論で成り立っているわけではない。下の表から見ると
 「大好き」とまでは行かなくても、せめて「どちらかといえば好き」に属していたい。最悪でも
 「好きでも嫌いでもない」で踏みとどまっていないと、ビジネスは絶対にうまく行かない。

大好き どちらかといえば
好き
好きでも嫌いでもない どちらかといえば
嫌い
大嫌い
30% 40% 30%

 商売に於いては「どうしたらお客様に喜んでいただけるか」、「どうしたらお客様に満足していただけるか」
 が基本であるが、その前に「お客様に嫌われない事」が大命題である。

 何故客に嫌われるかと言うと「不」のつくことをやるから。代表的な不は。
  @「不快」・・・原因は、不遜、不躾、不明朗、不穏当
  A「不安」・・・原因は、不確実、不完全、不徹底
  B「不便」・・・原因は、不親切、不誠実、不勉強、不人情  

<陽貨第十七>  2006−2−4

・六言六蔽
 六つの美徳に伴う、六つの弊害
 @仁を好んでも学問によってその理を明らかにしなければ、単なるお人好し・・・愚の蔽
 A知を好んでも学問によってその理を明らかにしなければ、単なる物知り・・・・蕩の蔽
 B信を好んでも学問によってその理を明らかにしなければ、妄信・狂信・・・・・賊の蔽
 C直を好んでも学問によってその理を明らかにしなければ、徒に人を追及する・・絞の蔽
 D勇を好んでも学問によってその理を明らかにしなければ、蛮勇・匹夫の勇・・・乱の蔽
 E剛を好んでも学問によってその理を明らかにしなければ、頑固者の偏屈屋・・・狂の蔽    

・少子、何ぞ夫(カ)の誌を学ぶことなきや
 誌経を学ぶポイント
 ・誌は聞く者をして感奮興起せしめる。
 ・観る人をして人情の機微を覚らしめる。
 ・集団にあっては、進んで睦みあい。
 ・反目にあっても怨みを和らげる。
 ・近くは親に仕え、遠くしては君に仕える道を知ることができる。
 ・鳥や獣や草や木や多くの名前を知ることができる。
 
・伯魚に謂いていわく
 孔子が息子の伯魚に「誌経の周南と召南を学んだか」と言っている。
 「周南と召南には男女・夫婦の人倫の道が書かれている。これを学んでおかないと
 塀に鼻を突き合わせ、突っ立っているようなもので、進むことも、あたりを見渡すことも出来ない
 世間しらずの野暮天になってしまう」

 「男女の機微が分からなければ、野暮天」、まさにその通り。また「惚れて通えば千里も一里」。
 孔子は道徳の干物ではない。

 
・礼と云い礼と云うも、玉帛(ギョクハク)を云わんや
 礼は仁あっての礼。まことの思いやりを、言葉や表情や動作に置き換えたものが礼の本質。
 礼と仁の関係を図にすると以下のようになる。

 国家や会社の見方も、従来の物差しを変えたらよい。軍事力・経済力、資本・売上・収益などから
 敬礼・欠礼・虚礼・非礼という尺度で見直してはどうか。

最大




  








最小


仁なく礼あり




虚礼の人
 


仁ありて礼あり




敬礼の人

仁もなく礼もなし


非礼の人

仁ありて礼なし


欠礼の人
  最小←          仁          →最大


・色氏iハゲシク)しくして内荏(ヤワラカ)なるは
 上辺は、いかめしそうにしているが、内心は柔弱で臆病なものは、ビクビクしながら
 盗みを働くコソドロのようなものである。
 人間の真価は、地位・名声・肩書をすべて はぎとった生地のままの心栄えや境地で決まる。

・卿原(キョウゲン)は徳の賊なり
 人気を得んがため誰にでも媚び入る八方美人は、徳を害う賊である。
 「郷原」とは、八方美人、虚礼の礼の専門家。

・道に聴きて塗(ミチ)に説くは
  行く道の途中でせっかく善い事を聴いても、しっかり心で受け止めるをせず、オウム返しに
 ゆきかう人に話してしまうようでは、自らを棄ているようである。

 「道聴塗説」(ドウチョウトセツ)は、他人の言葉をすぐに受け売りすること。

・鄙夫(ヒフ)は與(トモ)に君に事(ツカウ)べけんや
 志が低く、理想を持たない卑しい人間とは、ともに君に事えることは出来ない。なぜならば、
 性根の卑しい人間は、まだ地位や俸給が得られない内は、どうしたらそれが得られるかと
 いことのみに腐心し、一旦地位や俸給が得られたとなると、今度はそれを失いはしまいかと
 いうことばかりを憂えるようになる。

 性根の卑しい人間が一旦保身にはまり込むと、目的のためには手段を選ばすとなって、
 どんな破廉恥なことでもしかねない。 

<陽貨第十七>  2005−12−3
陽貨、孔子を見んと欲す
  当時の風習の1つ。

・性、相近きなり。習、相遠きなり
 
 人は生まれながらにして、善性(仏性)を宿していて、大きな個人差は無いが、生後の教育と
  習慣によって、善人にも悪人にもなり、賢者にもなり愚者にもなってしまうのである。

・唯上知と下愚とは移らず
 性相近きなり習遠きなりといっても、最上根の人と最下根のひとでは、天と地ほどの開きが
 出来てしまって、最早移り変わりようがない。

  [儒教的善一元論」  


  「教えありて類なし」                 根本的には善一元
 『性の本は誠なり』      「性相近きなり、習相遠きなり」       
 


  
[段階的善悪五元論]


最善の
領域
 

どちらかと云えば
善の領域
 

善でも悪でもない
価値中立的な領域
 

どちらかと云えば
悪の領域
 

最悪の
領域
 
ホワイトゾーン30% グレーゾーン40% ブラックゾーン30%


  
[上知、下愚に置き換え]  

上知
最上根
上根 中根 下根 下愚
最下根

  上知・最上根  (特に良い) 生まれながらに之を知る者
  上根      (やや良い) 学びて之を知る者
  中根      (普通)   因(クル)しみて之を学ぶ者
  下根      (やや悪い)  やってみて因(クル)しんでも、学ばざる者 
  下愚・最下根  (特に悪い) 初めからやってみる気もなく、学ぼうともしない者

  キリスト教的世界観は、善か悪か、天使か悪魔か、天国か地獄との「善悪二元論」。
  とかく攻撃的、排他的になりがちである。

  儒教が寛容で柔軟性があると云われる所以も、「人の性は、
善一元」としながらも、
 「善悪五元論」とする世界観にある。  

  
  
[仏教的善一元論]


 根本的には善一元・『悉有仏性(シツウブッショウ)』総てに仏性が宿る
 


  
[段階的善悪十元論]   詳しくはこちらをどうぞ。

菩薩 縁覚 声聞 天上 人間 修羅 畜生 餓鬼 地獄
聖者の四界 凡夫の六界


子、武城に之きて絃歌の聲を聞く

  「鶏を割くに焉んぞ牛刀を用いん」の出典元

・公山弗擾、費を以て畔く

  李氏の家臣公山弗擾が、李氏の私領の費を根城に謀反を起こし、孔子を招いた。
  孔子は行きたがったが、子路の諫めで取りやめた。


・能く五つの者を天下に行うを仁と為す

  @恭  恭しい     いつも恭しく慎み深くありなさい
  A寛  寛大      何事にも寛大さを以って臨みなさい
  B信  言を違えない  言を違えず、言行一致を心掛けなさい
  C敏  俊敏      事にあたっては、常に敏活に溌剌と臨みなさい
  D恵  恵み深い    立場の弱い人には、恵み深くありなさい

  この5つを広く天下に行うこと。これはそのまま「リーダーの心得・五箇条」として通用する。

・ひつ肸召ぶ。孔子往かんと欲す

  晋の大夫趙簡子の家臣のふつ肸が、中牟を根城として謀叛を起こし、孔子を招いた。
  公山弗擾の招きの時と同じく、孔子は応じたかったが、またも子路が諌めて、往かなかった。